本記事は、周囲の評価に振り回され、マネジメントに限界を感じている中堅マネージャーに向けた処方箋です。
最新の脳科学とアドラー心理学を掛け合わせ、「承認」という麻薬から脱却し、部下と対等な「横の関係」を築く具体策を提示します。
この記事を読めば、他人の顔色ではなく、自らの「貢献感」を軸に、揺るぎないリーダーシップを発揮できるようになります。
現代のマネージャーを蝕む「承認の病」
SNSを開けば「いいね」の数が可視化され、社内チャットではリアクションの数が仕事の評価と直結する。現代のビジネスシーンは、かつてないほど「承認欲求」を刺激する構造になっています。
中堅マネージャーの多くが、上司からの評価を気にし、部下からは「物分かりの良いリーダー」だと思われたいという強迫観念に駆られています。しかし、他者からの評価をガソリンにして走るエンジンは、いつか必ずガス欠を起こします。なぜなら、評価という報酬は自分の手の中にはなく、常に他者の気まぐれに支配されているからです。
アドラー心理学では、この状態を厳しく否定します。他者の期待を満たすために生きることは、自分の人生を生きることを放棄した「奴隷の生き方」に他ならないからです。
承認欲求という名の「ドーパミン中毒」
なぜ、私たちはこれほどまでに他者からの評価を求めてしまうのでしょうか?
その正体は、脳内の報酬系回路にあります。
行動経済学や脳科学の知見によれば、他者から褒められたり、SNSで肯定的な反応を得たりした瞬間、脳内の「腹側被蓋野(ふくそくひがいや)」から「側坐核(そくざかく)」にかけてドーパミンが放出されます。これは、金銭的報酬や食事を得た時と同じ快楽中枢を刺激します。
問題は、この「社会的報酬」には強い依存性があることです。
- 報酬を得るために行動する(外発的動機付け)
- 報酬がないと行動しなくなる(アンダーマイニング効果)
- より強い報酬(より多くの「いいね」や称賛)を求めるようになる
あなたが「部下の顔色が気になる」「SNSの反応に一喜一憂する」のは、性格の問題ではなく、脳が報酬系回路のループに囚われているからです。
現代のデジタル文化は、アドラーが批判した「賞罰教育(褒められるからやる、叱られるからやめる)」を高度にシステム化した、巨大なドーパミン供給装置といえます。
この連鎖の中にいる限り、マネージャーは「嫌われないこと」が目的となり、チームに必要な厳しい決断や、本質的な対話ができなくなります。
「縦の関係」がチームの創造性を破壊する
アドラー心理学において、承認欲求を求める背後には必ず「縦の関係」が隠れています。縦の関係とは、相手を「自分より上か下か」で判断する競争のパラダイムです。
多くのマネージャーは、無意識のうちに部下を操作しようとして「褒める」という手段を使います。しかし、褒めるという行為は「能力のある人間が、能力のない人間に下す評価」という側面を持ちます。これは明確な「縦の関係」です。
縦の関係と横の関係の対比
| 項目 | 縦の関係(支配と依存) | 横の関係(信頼と協力) |
| 基本姿勢 | 評価、操作、上下関係 | 尊敬、共感、対等 |
| コミュニケーション | 褒める・叱る | 感謝する・伝える |
| 目的 | 相手を思い通りに動かす | 共通の目標へ共に進む |
| 副作用 | 依存心の育成、失敗への恐怖 | 主体性の向上、心理的安全 |
「縦の関係」に基づいたマネジメントでは、部下は「評価者である上司」の顔色を伺うようになります。すると、失敗を隠し、新しい挑戦を避け、指示待ちの人間が増えていきます。一方で、マネージャー自身も「部下に舐められてはいけない」「常に正解を出さなければならない」というプレッシャーに自縛され、疲弊していくのです。
課題の分離:その「悩み」は誰のものか
承認欲求の奴隷から脱却するための第一歩は、アドラー心理学の真骨頂である「課題の分離」です。
対人関係のトラブルの多くは、他者の課題に土足で踏み込むこと、あるいは自分の課題に他者を介入させることで起こります。マネージャーが抱く「部下が思い通りに動いてくれない」「上司が自分を評価してくれない」という悩みは、すべて課題の分離ができていない証拠です。
誰の課題かを見分ける基準
その選択によって、最終的な結末を引き受けるのは誰か?
たとえば、「部下がやる気を出すかどうか」は、最終的には部下の課題です。マネージャーにできるのは、部下が仕事に取り組みやすい環境を整え、援助を申し出ること(馬を水辺に連れて行くこと)までであり、水を飲ませること(やる気を出させること)はできません。
同様に、「上司があなたをどう評価するか」は上司の課題であり、あなたの課題ではありません。あなたがコントロールできないことにエネルギーを注ぐのをやめた瞬間、心に驚くほどの余白が生まれます。
究極の問い:誰にも知られなくても、それをやるか?
ここで、一つの思考実験をしてみましょう。
もし、あなたがこれから行う素晴らしい仕事が、誰からも褒められず、社内報にも載らず、SNSで拡散されることもなく、誰にも知られないとしたら。それでも、あなたはその仕事を続けますか?
この問いに「Yes」と答えられる領域こそが、あなたの「貢献感」の源泉です。
承認欲求は「他者からどう見られるか」という自分への執着(自己執着)ですが、アドラーが提唱する「共同体感覚」は「他者に何を貢献できるか」という他者への関心です。
「褒められること」を目的とするのではなく、自分の行動がチームや顧客に対して「役に立っている」と自分自身で主観的に思えること。これが「貢献感」です。この貢献感さえあれば、他者からの承認は不要になります。なぜなら、自分には価値があるという実感を、他者の手に委ねる必要がなくなるからです。
健全な「横の関係」を築く3つのステップ
明日から職場で実践できる、アドラー流のコミュニケーション術を解説します。
1. 自己受容:できない自分をそのまま受け入れる
「自己肯定」は、できないのに「できる」と思い込むことです。一方、「自己受容」は、60点の自分をそのまま受け入れ、100点に近づくためにはどうすればいいかを考えることです。マネージャーが「自分は完璧でなくていい」と認めることで、チームに心理的安全性が生まれます。
2. 「褒める」を「感謝」に変える
部下が成果を出した時、「よくやった、すごいな」と評価(縦の関係)するのではなく、「助かった、ありがとう」「君のおかげでチームが助かった」と、横の関係から感謝を伝えてください。感謝は相手を評価するのではなく、その貢献を認める行為です。これこそが、相手に「貢献感」を持たせる最高の関わり方です。
3. 他者信頼:条件なしに信じる
「裏切られるかもしれないから、まずは様子を見る」のは信用です。アドラーが言う「信頼」とは、根拠を求めず、条件をつけずに相手を信じることです。部下を「未熟な存在」として操作するのではなく、「対等なパートナー」として信頼を寄せる。その姿勢が、部下の主体性を引き出します。
最後に
私たちは、他者の期待を満たすために生きているのではありません。同時に、他者もまた、あなたの期待を満たすために生きているのではないのです。
「承認欲求の奴隷」から解放される道は、険しく見えるかもしれません。脳が求めるドーパミンの誘惑は強力です。しかし、他者からの評価という不安定な足場を捨て、自らの「貢献感」という揺るぎない軸を確立したとき、マネジメントの本質が見えてきます。
明日、職場に着いたら、誰かに「ありがとう」と伝えてみてください。それは評価ではなく、対等な人間としての純粋なメッセージです。その一言から、あなたの「横の関係」は始まります。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。管理職という孤独な立場で、日々葛藤されているあなたに、アドラーの言葉が少しでも光を灯すことを願っています。
【次の一歩としてのおすすめ】
まずは今日、自分の仕事の中で「誰にも知られなくても、やってよかったと思えること」を1つだけメモに書き出してみてください。それが、あなたの本当の「貢献感」の種になります。
この記事が、あなたのマネジメント人生の転換点となることを願って。


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